季節は、静かに次の段階へ進み始めている。
朝の空気にもう冷たさはなくて、外に出たときに少しだけ体が軽くなる。日差しははっきりと暖かくて、立ち止まっていると、そのまま何もせずにいたくなるような時間が流れている。
気づけば桜は満開を過ぎていて、風が吹くたびに花びらが舞っている。地面に落ちたそれはもう特別なものには見えなくて、ただの景色の一部になっている。でも、その何気なさが、季節が進んでいることを一番はっきりと伝えてくる。
少し前までの「始まり」の空気は、もうどこにもない。代わりにあるのは、動き出してしまった日常と、その中で流れていく時間だ。
新しい季節は、気づかないうちに通り過ぎていく。桜が散り始めたこの時期は、そのことを静かに教えてくる。今シーズンが始まったんだなと、どこか現実感の薄いまま考えていた。
結果だけを見れば、悪くないスタートだった。むしろ良いと言ってもいい。スコアだけ追えば、自分たちは順調に勝っているし、周りから見ても問題はなさそうに映ると思う。
でも、試合のあとのミーティングでは皆同じことを感じていたていた。
「このままでは、のまれる」
たとえば、うまくいったはずのプレーの中にも、ほんのわずかな違和感が残っている。1本目、レセプションの制度と連携であったり、ゾーン8と呼ばれるコート中心への返球、誰もが1本目に触れることができるからこそ誰が行くのか、という判断に一瞬の迷いがあった、そういう細かい部分だ。
そういう違和感は、時間が経つと消えるどころか、むしろ輪郭をはっきりさせてくる。
勝ってはいるけれど、流れが完全に自分たちにあったとは言い切れない時間帯があった。気づけば相手に押されていて、なんとなく立て直して、また点を取っている。そんな場面がいくつかあった。
うまく説明はできないけれど、「このままでいいのか」という感覚だけが残った。
目標は2部完全優勝。言葉にするとシンプルで、少しだけ現実から浮いているようにも聞こえる。でも、その言葉があるからこそ、今の違和感を見過ごすわけにはいかないとも思う。
完全優勝というのは、ただ勝つこととは少し違うい失セット0という成し遂げて当然であり通過点である。このリーグで勝ちながらも、どこかで崩れているようではたどり着けない場所だと思う。もっと滑らかで、もっと無駄のない状態が必要になる。
違った視点で振り返ると、この目標を掲げる上で自分たちは「挑まれる側」であり、敵は自分の中に潜んでいる。一瞬の焦りが次のプレーに影響している。レシーブが少し乱れて、トスがずれて、スパイクの角度が変わる。そういう連鎖が、静かに起きている。
たぶん、問題は特別なところにはない。むしろ、その逆で、当たり前の部分にあるんだと思う。
間のボールに対する連携、ブロックの基本位置に戻る早さ、サーブの精度、そういう基本的なことだ。それができているときは流れが良くて、できていないときは少しずつズレていく。単純だけど、意外と難しい。
練習でも似たようなことがある。うまくいくときは、何も考えなくても体が自然に動く。でも、少し歯車が噛み合わなくなると、一つ一つの動きがぎこちなくなる。その違いがどこから来ているのか、はっきりとは分からないことも多い。
それでも、繰り返していくしかない。
ボールを拾って、繋いで、また拾う。その中で少しずつ修正していく。目に見える変化はすぐには出ないけれど、ある日ふとした瞬間に、「あ、前より良くなっている」と感じることがある。
たぶん、それを信じるしかないんだと思う。
バレーボールはチームスポーツであり、流れのスポーツでもある。誰かが少し迷っていたり、誰かが少し遅れていたりする。でも、それは特別なことじゃなくて、今の段階では自然なことなのかもしれない。
問題は、それをそのままにするかどうかだ。
勝っていると、どうしても見過ごしてしまいそうになる。でも、そのまま進めば、どこかで大きなズレになる。そうなる前に、ちゃんと気づいて直していく必要がある。
春季リーグはまだ始まったばかりだ。
今の自分たちは、完成しているわけでもなければ、何もできていないわけでもない。その途中にいる。うまくいっている部分と、そうじゃない部分が混ざり合っている状態だ。
その曖昧さが、少しだけ心地よくて1回の成功に浸ってしまうため、同時に少しだけ不安でもある。
でも、たぶん大事なのは、その曖昧さから目を逸らさないことだと思う。
できていることだけを見るんじゃなくて、できていないことにもちゃんと目を向ける。その上で、一つずつ積み重ねていく。それしか方法はないし、それでしかたどり着けない場所がある。
体育館の空気は、時間によって少しずつ変わる。最初は静かで、だんだんと音が増えていって、最後にはまた静かになる。その中で、自分たちは同じようにボールを追い続けている。
たぶん明日も、同じことを繰り返す。
でも、その繰り返しの中で、ほんの少しだけ何かが変わっていく。その変化が積み重なった先に、2部完全優勝という言葉が、ただの目標じゃなくなる瞬間が来るのかもしれない。
今はまだ、そこまで遠くは見えない。
それでも、とりあえず次の一本に集中するしかない。ほんの少しのズレを埋めるために、もう一歩だけ前に出る。その繰り返しが、今の自分たちにできる一番現実的なやり方なんだと思う。